炭素原子からなる蜂の巣格子構造はグラフェンとして広く知られていますが、この炭素原子を他の4価元素で 置き換えることは実現可能でしょうか。もしシリコン原子によって蜂の巣格子構造が安定に作成できるならば、 シリコンによる半導体テクノロジーにグラフェンと類似する電子構造を持った同素体が仲間入りすることになり、 シリコンテクノロジーの延長線上に新しいデバイスが作成できるかも知れません。
その様な試みの一つとして、2010年、JAIST・高村(由)グループはZrB2(0001)面上に シリコン原子からなる二次元ネットワーク構造の生成に初めて成功しました [1,2]。 我々はZrB2上のシリコン構造の同定を行うために、密度汎関数理論に基づく第一原理計算を 系統的に行い、角度分解光電子スペクトル、XPS及び、STMスペクトルの実験結果と比較検討しました [2]。 分子動力学計算及び構造最適化計算から、ZrB2上においてシリコン原子が波打ち型蜂の巣格子 の安定構造を持つこと、また波打ち構造に由来したいくつかの多形構造が存在することが明らかとなりました。 計算によって得られたZrB2(0001)面のシリセン構造は(√3×√3)構造を取り、単位格子中に含まれた 6つのシリコン原子はon-top(1原子)、bridge(3原子)、hollow(2原子)サイトに分類されます。 STM測定及び角度依存光電子分光法における回折効果からの構造解析の結果と一致が見られるのは(計算で得られた) 凖安定構造であり、実験で見られるストライプ構造による格子歪みの緩和が波打ち構造の安定性に関与している と考えられます。 この凖安定なシリセン構造のSi2pのXPSスペクトルの計算結果は実験結果とおよそ一致しており、波打ちシリセン構造の生成を強く示唆しています。 また計算で得られたバンド構造中にはシリセンπバンドに由来するバンドギャップの生成が見られますが、 角度分解光電子スペクトルにも類似したバンドが確認され、波打ちシリセン構造の生成を支持しています。
本研究で見出された原子単位での波打ち蜂の巣格子構造はグラフェンでは見られないものであり、シリセンの 大きな特徴の一つです。基板の格子定数によって波打ちの程度を制御できれば、電子構造の制御パラメーター としての『波打ち』は注目を集めるものと考えられます。
本研究はJAISTの高村(由)グループとFriedleinグループとの共同研究として実施されました。