Research Highlights:
カーボンナノチューブの電気伝導計算
図1: グラフェン電極間に架橋した有限長のカーボンナノチューブ
(下図のModel 4に対応する)
電子デバイスの極小化における究極的なゴールは、用途に応じて目的の電子輸送特性を持つように、原子レベルから
デバイス構造を制御することです。この観点から見た場合、炭素原子からなる物質群は非常に魅力的な素材です。
非常に多岐に渡る化学構造が知られており、原子レベルからデバイス構造を制御できる可能性があるからです。
これらの炭素原子からなる物質群の中で、カーボンナノチューブは理想的な導体として知られています。
数十ナノメーターの長距離に渡って散乱されることなしに、電子は弾道的に輸送されます。
カーボンナノチューブに基いたデバイスの実現可能性を調べるために、私達はグラフェン電極に架橋された有限長の
(7,0)ジグザグカーボンナノチューブに対し、大規模な電気伝導シミュレーションを行いました(図1を参照)。
シミュレーションは密度汎関数理論と非平衡グリーン関数法に基いており、実験から推定されたパラメーター等は使用
していません。また実際の計算はOpenMXを使用しました。
図2: 計算で得られた電流-電圧曲線
カーボンナノチューブの長さと接合構造がどのように伝導特性に関与しているのか調べるために、ナノチューブ長と
接合部分へのリチウム原子挿入量を変化させ、電流電圧特性の計算を行いました。
その結果(図2)、電気伝導特性はカーボンナノチューブの
長さと接合構造に大きく依存していることが明らかとなりました。計算を行った細いカーボンナノチューブはn型半導体として
振舞うことが予想されますが、実際には短いカーボンナノチューブ(2.14nm)のフェルミ準位はナノチューブの終端キャップ領域に
局在しており、結果として大きな伝導ギャップを形成しています(図1のモデル1,2)。より長いチューブ(6.42nm)においても
ショットキー接合を形成後、中間的な伝導ギャップを保持しています(図1のモデル3)。長いチューブ(6.42nm)の接合領域へ
リチウム原子を挿入した場合、接合部の性質がショットキー接合からオーミック接合に大きく変化しました(図1のモデル4)。
状態密度の解析から接合部の性質の変化は、電荷移動と軌道混成の増大の二つの要因から生じることが明らかとなりました。
この計算の結果は電極とチャネルとの接合部の構造を制御することが、電気伝導特性を制御する上で、非常に重要であること
を示唆しています。
本研究は富士通研究所との共同研究として実施されました。