Research Highlights:
原子に対する高精度有限要素法
Accurate finite element method for atoms
図: 三次のHermiteスプライン関数: S0とS1

分子や固体の電子状態を理解する上で、原子の電子状態計算は最も基本となるものです。 また高効率かつ高精度な電子状態計算手法を発展させる上でも原子の電子状態計算は 出発地点となります。高精度な計算手法を開発する上で重要なことは、二種類の 誤差を定量的に区別することです。二種類の誤差とは基底関数や数値積分などの数値的な 問題から生じる誤差と、汎関数などの理論的枠組それ自体から生じる本質的な誤差のことを 意味します。近年の汎関数法の精度は数kcal/molのオーダーで議論されており、前者と 後者の誤差の切り分けは実際は容易なことではありません。より高精度な汎関数法 を開発するためには前者の数値誤差が十分に小さい計算手法を用いる必要があります。

そこで私達は原子の電子状態計算を超高精度で行うために、有限要素法に基づく計算手法の開発に 取り組みました[1]。本手法は密度汎関数法だけでなく、Hartree-Fock(HF)法に対しても、超高精度計算を可能とし、 ハイブリッド汎関数法の開発における数値検証のプラットフォームとしても利用可能です。 この方法では、動径方向の波動関数は変換座標 x=√ r  上で、三次のHermiteスプライン関数を用いて展開されます。この時、関係する積分は全て解析的 に計算できることが重要です。数値的な誤差の大部分は数値積分から生じることが分かっており、 本手法では、数値積分を行うことなしに全て解析積分を行うことで、高精度計算を実現しています。 全エネルギーはメッシュ間隔が減少するにつれ、上から収束し、その誤差は代数的に減少します。 原子番号Zの原子に対して、メッシュ間隔を 0.025/√ Z  で与えた場合、局所密度近似とHF法による全エネルギーの絶対誤差は10-7 Hartree となっています。私達は最近、高精度O(N)交換汎関数法の開発を行いましたが、そこでは 有限要素法に基づく本計算手法がプラットフォームとして利用されました[2]。今後も新しい汎関数法の 開発に本手法を利用していきたいと考えています。

  1. "Accurate finite element method for atomic calculations based on density functional theory and Hartree-Fock method", T. Ozaki and M. Toyoda, Comp. Phys. Comm. 182, 1245 (2011).
  2. "Exchange functional by a range-separated exchange hole", M. Toyoda and T. Ozaki, Phys. Rev. A 83, 032515 (2011).