Research Highlights:
強相関電子系のためのO(N)DFT+U法
O(N) LDA+U method for strongly correlated systems

密度汎関数理論における局所密度近似(LDA)や一般化勾配近似(GGA)は強相関電子系の電子状態を適切に記述するためには 不十分であることが知られています。ここでの強相関電子系とは局在dもしくはf電子を含んだ系であり、 具体的には遷移金属を含んだ酸化物等がそれに相当します。 凖局所近似の枠内では局在軌道中の電子が感じる他の電子との量子力学的な強いクーロン相互作用を十分に記述することが出来ません。 また自分自身との偽の相互作用(自己相互作用)が凖局所近似では含まれてしまうことも、軌道秩序を再現する上で大きな問題となっています。 この問題に対処する簡便な方法の一つはDFT+U法と呼ばれる手法です。 この手法では通常のLDAやGGAの交換相関項の取扱いに加え、さらに局在電子の量子力学的クーロン相互作用を 一般化ハバードモデルの形で付け加えます。 そのためDFT+U法は完全な第一原理計算手法というよりむしろやや経験的な計算手法であることは否めませんが、 実験結果を比較的良く再現できるため、広く用いられています。

私達はDFT+U法を擬原子基底関数を用いたOpenMXに実装しました[1]。 擬原子基底関数は非直交基底であるため、DFT+U法で重要な役割りを持つ軌道占有数の評価が難しいことが知られていましたが、 私達は双対射影演算子を導入することで、最も基本的な電子の総和則が満されることを見出しました。 またDFT+U法では密度行列が基本変数となるため、O(N)法と組み合せて使用することも可能であることを指摘しました。 本手法で計算された3d遷移金属酸化物の電子状態はこれまでの理論計算及び実験結果と比較し、良く一致しています[1]。 OpenMXに実装されたDFT+U法は、様々な遷移金属酸化物の電子状態計算に用いられており、 とりわけスピン軌道相互作用が局在d電子内のクーロン相互作用と結合することで発現する新しい絶縁相(Sr2IrO4)の解明において、重要な役割りを担いました[2,3]。

本研究はソウル大学との共同研究として実施されました。

  1. "O(N) LDA+U electronic structure calculation method based on the nonorthogonal pseudoatomic orbital basis", M.J. Han, T. Ozaki, and J. Yu, Phys. Rev. B 73, 045110 (2006).
  2. "Anisotropic exchange interactions of spin-orbit-integrated states in Sr2IrO4", H. Jin, H. Jeong, T. Ozaki, and J. Yu, Phys. Rev. B 80, 075112 (2009).
  3. "Novel Jeff=1/2 Mott State Induced by Relativistic Spin-Orbit Coupling in Sr2IrO4", B. J. Kim, H. Jin, S. J. Moon, J.-Y. Kim, B.-G. Park, C. S. Leem, J. Yu, T. W. Noh, C. Kim, S.-J. Oh, J.-H. Park, V. Durairaj, G. Cao, and E. Rotenberg, Phys. Rev. Lett. 101, 076402 (2008).