Research Highlights:
大歪み下での単層カーボンナノチューブの硬さ
Stiffness of SWCNT
図: シミュレーションによる0Kでの軸方向圧縮における
単層カーボンナノチューブの座屈過程

飯島によるカーボンナノチューブ(CNT)の発見以来[1]、関連した物質群に対して、非常に多くの基礎的研究と 応用研究がなされています。これらの研究において、実験及び理論の両面からCNTが注目すべき力学特性 を持っていることが分かってきました。この力学特性は次の三つの観点から特徴付けられます。 (i) 異方性: カーボンナノチューブの力学特性は多くの高分子繊維と同様に異方性が大。 (ii) 硬性: 長軸方向のヤング率はダイヤモンドのそれ(およそ1 TPa)にほぼ匹敵。 (iii) 復元性:非常に大きな曲げや歪みに対して、ほとんど欠陥を生じることなしに元の構造に復元。 これらの顕著な力学特性と併せ、軽元素の炭素原子のみから構成された低密度物質(1.3g/cm3)であることから、 カーボンナノチューブは航空機や宇宙材料などの構造材料として大きな期待が持たれています。 カーボンナノチューブの螺旋度と力学特性の関係は研究初期から大きな関心が持たれ、 すでにヤング率のような低歪み領域の力学特性は螺旋度にほとんど依存しないと理論計算 から予測されていますが、弾性領域を越える大歪み領域においてはそのネットワーク構造 が大きく歪み、力学特性と螺旋度が何らかの関係を持っているのではないかと推定されます。

そこで我々は軸圧縮・引っ張りのオーダーN大規模分子動力学シミュレーションを行ない、 弾性歪み領域を越えた大歪み領域における軸応力の螺旋度依存性を詳細に検討しました[2]。 シミュレーションの結果、座屈形態が温度に著しく依存していること、また0Kでの座屈が 起こる直前の応力の螺旋度依存性がCNTの螺旋度に依存していることを見出しました。 我々のシミュレーションは弾性領域を越える歪み下において、伸張方向に対してはジグザグCNTが、 また圧縮方向に対してはアームチェアCNTが最も硬くなることを示唆しています。 さらに大歪み下での硬さの螺旋度依存性の物理的に起源を明らかにするために、我々は 調和ポテンシャルモデルと解析的ボンドオーダーポテンシャルモデルを用いて、格子力学の観点から 歪みとエネルギーの関係を詳細に検討しました。我々の解析結果はCNTの硬さの螺旋度依存性は グラフェンの六員環構造から生じていることを示しています。

  1. “Helical microtubules of graphitic carbon”, S. Iijima, Nature (London) 354, 56 (1991).
  2. “Stiffness of Single-Walled Carbon Nanotubes under Large Strain”, T. Ozaki, Y. Iwasa, and T. Mitani, Phys. Rev. Lett. 84, 1712 (2000).