Research Highlights:
ジグザググラフェンナノリボンにおける二重スピンフィルター効果
Dual spin filter effect in a zigzag graphene nanoribbon
図: 磁壁を持ったジグザググラフェンナノリボン

グラフェンは炭素原子からなる理想的な単一層状物質です。Diracコーンとして知られる特徴的なバンド構造をもっており、 多くの研究者によって実験的・理論的に勢力的な研究が行われています。このグラフェンシートからグラフェンナノリボンを 作成することを考えてみましょう。シートからリボンを切り出す方法は大まかには三種類の方法が考えられ、切り出した リボンの端の構造からそれぞれ、ジグザグ型、アームチェア型、カイラル型と呼ばれています。特にジグザグ型は 注目に値する物質です。ジグザグ端を水素で終端したとしても、ジグザグ端に位置する炭素原子は有限の磁気モーメントを 持っています。この磁気モーメントはフェルミ準位近傍の平坦バンドから生じており、出来るだけ異なる空間軌道に 電子が昇位し、結果としてクーロンエネルギーが小さくなることで生じる磁化過程です。フェルミ準位近傍が 平坦バンドであることから昇位エネルギーが小さくなり、クーロンエネルギーの利得がそれを上回ることになります。

スピントロニクスにおけるデバイスとして、これまでは強磁性金属やGaMnAsのような強磁性半導体などが 考えられてきましたが、私達はジグザググラフェンナノリボンがスピントロニクスデバイスの良い候補物質 ではないかと考えています。ジグザググラフェンナノリボンのその様な機能を例証するために、私達は ジグザググラフェンナノリボンの有限バイアス下における第一原理電気伝導シミュレーションを行いました。 その結果、図1に示した磁壁構造を持ったジグザググラフェンナノリボンが二重スピンフィルター効果と 名付けた非常に特殊なスピンフィルターとして機能することを理論的に予測しました [1]。 二重スピンフィルター効果とは印加するバイアスの向きに応じて、フィルターされる電子スピンの向きが 反転する現象のことです。この効果はサブ格子内の炭素原子数が偶数の場合にのみ発現し、奇数の場合 にはフィルター効果が生じません。物理的な起源を解明するために、第一原理計算からWannier関数を 用いて強結合モデルを構築しました。その結果、相互作用のない2バンドモデルによって、この現象が 説明できることが分かりました。そこでは波動関数の対称性と平坦バンドのスピン分極構造の連携によって、 二重スピンフィルター効果が発現することが明らかとなりました。

本研究は産業技術総合研究所と物質・材料研究機構との共同研究として実施されました。

  1. "Dual spin filter effect in a zigzag graphene nanoribbon", T. Ozaki, K. Nishio, H. Weng, and H. Kino, Phys. Rev. B 81, 075422 (2010).